トラウマと対人関係

対人関係・愛着

対人関係で意見を言わなくてはいけなかったり、批判や対立が生じると、途端に絶望的な気持ちになったり、罪悪感を感じたり、思考が停止して何もできなくなってしまう人がいる。本人としては、突然無力化されてしまう感覚であったり、耐え難いような怒りや罪悪感に苛まれ、その場を離れたくなったり、極端な行動(突然謝罪する、取り繕う、黙り込むなど)に出てしまうことがある。そう言った感覚に一旦なると、なかなか元の状態に戻れない。このような状況は、対人関係の距離が近くなった時、または近い人との間で起こることが多い。このような状態であると、人間関係が長く続かない、深い関係に発展するのが億劫になる。その原因として、対人関係に関連した心の傷、つまりトラウマが関与することがある。

PTSDにおいてのトラウマの定義は、災害、暴力、性被害、事故、戦争体験、虐待などにより、そのことの記憶が蘇る、過敏になる、罪悪感や自責を覚える、トラウマに関連する出来事や状況を避けることである。虐待や両親の不仲などで、長期間、安心できない状況で過ごしたことにより、心身に影響を受けることを複雑性PTSDと呼んでいる。私の経験では、このような診断を明確に満たさないか、自覚がないが、現在の困りごとが過去のトラウマ体験に起因しているという人は少なからずいるように思う。社会生活を送っていても、どういうわけか体調を崩しやすかったり、断れない、意見が言えない中で、必要以上の体力を消耗している人がいる。

対人関係でのトラウマとなると、大きく影響を受けるのはやはり親子関係になる。なぜかというと、子供の頃の方が親との力の差が大きいし、その状況に疑問を持つことは能力的に難しい。結果的に、その状況を当たり前だと認識し、親に合わせて生活を送ることになる。だから、気づきにくいのだ。そういった親を疑問視しない人もいれば、大嫌いで早々に自立した人もいるが、どのような影響を受けているかは、あまり自覚されないことが多い。両親の不仲で激しく怒鳴り合っている、暴力が起こる、親からの叱責が非常に激しかったり、教育という名のもとに厳しすぎる躾がなされていることもある。親自身もそういった生育経験があり、あまり疑問を持たないこともあるようだ(もちろん、それに気づいて、後悔したり、自分自身の生い立ちを振り返っていく人もいる)。

トラウマ体験は、大半がPTSD化しないという説がある。それはなぜかというと、辛い経験があった時に、誰かとそのことを共有したり、情緒不安定になっているのが周囲の人に伝わり、話を聞かれたりするからだ。トラウマ体験について思い出させない方がいいと思う人が多いかもしれないが、思い出さないようにするほうが、トラウマ化につながることが多い。もちろん、トラウマ体験を語ることは辛いことなのだが、そう言ったことの中で、心痛な感情を言語化し、防衛反応としての感情が徐々に収まっていく。こう言った体験が、何らかの理由で持てなかった人の方が重篤化しやすい。

カウンセリングの中で、過去を振り返ることは少なからずあるが、それを嫌悪する人や、軽視する人が意外に多い。そう言ったことを語らず、自分を律して、何とかやりくりしながら生き延びてきているのだから、それは自然なことでもある。一方で、自分のことを話す習慣を新たに持つことは、やはり対人関係では必要なことでもある。そして、自分の経験や思いを語ることで、今は必要のない防衛反応であることに気づいたり、感情を語っても大丈夫であることを経験すると、対人関係は円滑化する。感情を出さない人の方が、周囲の人は緊張感を抱いているからだ。

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