摂食障害

症状と特徴

摂食障害は大きく分けると、

  • 体重の制限を過度に行う神経性やせ症 (anorexia nervosa:AN)
  • 過食、および体重をコントロールするための嘔吐などを行う神経性過食症 (bulimia nervosa:BN)

とがあります。

神経性やせ症は、

  1. 著しい低体重
  2. 体重増加や肥満に対する恐怖
  3. ボディイメージの障害
  4. 体重や体型が自己評価に過剰に影響する

ことであるとされています。

神経性過食症は、

  1. 過食
  2. 体重増加を防ぐための不適切な代償行動
  3. 体重や体型が自己評価に過剰に影響する

などが特徴です。治療法として、栄養療法、心理療法などが用いられることがあります。

以下では、摂食障害(AN=神経性食欲不振症、BN=神経性過食症、BED=過食性障害など)にみられるメンタライジング(心を読む力)の顕著な様相を、主な調査研究とともに整理します。

1. メンタライジング能力の低下

  • 自己メンタライジングの偏り
    • ANでは「完璧主義傾向」が強く、自他の心を想像する際に「失敗や拒絶の可能性」にのみ目を向けやすい人が多い。
  • 他者メンタライジングの過剰・不足
    • BNは、他者の評価を過剰に考える一方で(過共感)、実際の相手の心理とはずれた読み違えを起こしやすい。

2. メンタライジングの傾向

  • 心的等価モード
    • 自分の評価が現実として感じられるため、親や友人の「励まし」が信じられない人が多いです。結果的に、自分の評価に合致した根拠を探してしまうため、より他人の意見を受け入れられくなることが多いです。
  • 目的論モード
    • 「カロリーを1グラムでも多く燃やさないと、自分は存在価値がない」など、目的手段に囚われやすい傾向があります。その目的手段を追求することがどれほど自分にとって負担か、本質的な目的に近付いているかが見過ごされやすくなります。
  • プリテンドモード
    • 自分の苦痛を言葉にできず、「私は大丈夫」と周囲に嘘をついてしまう傾向があります。これにより、ストレスが蓄積されますが、周囲にそれを伝えることができないため、食事やダイエットで自分を保とうとしているケースが少なくありません。

3. 神経学的・生理学的知見の付記

  • 前頭前野の機能低下
    • fMRI研究では、ED患者の前頭前野(メンタライジングに関与)が健常者よりも反応が鈍く、他者視点の切り替えが困難であることが示されています。
  • 内臓感覚ネットワークの過/低活動
    • インターオセプションに関連する島皮質の活動が正常群と比較して著しく異なるため、身体信号の読み取りにズレが生じると考えられています。

4. 有効とされる支援

1. MBT-ED(Eating Disorders向けメンタライジング療法)

✦ 構成例(12~20回セッション/週1回)

  1. 導入・契約(1回)
    • プログラム目的の共有
    • メンタライジングとは何かの説明
    • セッションの流れと宿題の約束
  2. 自己メンタライジング強化(3~5回)
    • 感情カードや絵を使い、自分の感情と身体感覚を言語化
    • 「空腹」「満腹」「不安」「罪悪感」などテーマを設定
  3. 対人メンタライジング導入(3~5回)
    • ロールプレイを通じ、他者の立場と思考を推測
    • 食事場面での家族や友人の気持ちを想像するワーク
  4. 混乱モード対処(3~5回)
    • プリメンタライジング(衝動・目的論モード)に陥ったときの気づき
    • 「そのとき私の脳は何を優先している?」と客観化
  5. 統合と振り返り(1~2回)
    • 習得スキルの振り返り
    • 今後の課題とリラプス予防計画の策定
2. インターオセプション強化エクササイズ

✦ 週2回×4週間のプログラム例

  • ラベリング練習
    • 食事前後に「お腹の感覚」を1~5のスケールで自己評価し、ノートに記録
  • マッピング瞑想
    • 毎朝/毎晩、5分間ベッドに横たわり体の各部位の感覚(温度、圧迫感、空腹感など)を順に観察
  • 呼吸観察ワーク
    • 「息を吸う→お腹が膨らむ→息を吐く→お腹がへこむ」を10呼吸行い、視覚的に手を当てて実感
3. CBT-Eへのメンタライジング統合

✦ モジュールにおける追加ワーク

  1. 行動分析フェーズ
    • 「制限した」「過食した」場面を振り返り、行動の前後で感じた感情・思考を言語化
  2. 認知再構成フェーズ
    • 「〇〇しないとダメだ」という自動思考の裏にある感情(恐怖・不安・怒り)を探索
    • 「もしその感情が友人にもあったら?」と他者視点で問いかけ
  3. 再発防止フェーズ
    • 新たな行動プランを立てる際、「このとき自分も他者もどう感じるか」を予測し、代替行動を検討
4. IPT+メンタライジング訓練

✦ 8~12回のセッション構成例

  1. 対人課題の特定
    • 「家族間」「職場・学校」「グループ関係」から1つ選び、詳細を言語化
  2. 感情共有ワーク
    • セラピストとロールプレイしながら、「そのときあなたはどう思った?」「相手はどう感じた?」を交互に確認
  3. 双方向フィードバック
    • 他者視点でのコメント練習:「もしあなたが相手なら、どう受け取る?」
  4. 実生活への応用
    • 次回までに「相手の気持ちを予測し、その後の実際の反応を記録」する宿題
5. グループMBT-EDセッション

✦ 6~8人×6~10回のグループ

  • 毎回の流れ
    1. 「最近の体重管理で困ったこと」をシェア
    2. 他参加者が「あなたのとき私はこう感じるだろう」とフィードバック
    3. セラピストがメンタライジング視点で整理・言語化
  • 相互学習
    • 他者のメンタライジングのズレを指摘し、自分の視点との比較学習
6. オンラインMBT-EDプログラム

✦ 30分×週1回×4週間

  • ウェビナー形式
    • 少人数(3名まで)でZoomを利用
    • 画面共有で「感情ホイール」「身体感覚マップ」を提示
  • モバイル連携
    • セッション後、アプリでRF尺度のプッシュ通知評価を行い、翌週に進捗をレビュー
7. VRを用いたメンタライジング訓練
✦ 体験時間15分×週1回×4週間
  • 仮想食事シナリオ
    • VR空間で「テーブルに並ぶ食事」「他者の表情」を体験
    • セラピストと同時に視聴し、「他者が今どう感じているか?」を口頭回答
  • デブリーフィング
    • VR体験後、リアル空間で「その回答が正しかったか」を比較・言語化
8. モバイルアプリでの「感情―身体」記録
✦ 日常的自助ツール
  • 食事前後・就寝前のプッシュ通知で「お腹の感覚」「気分」をタップ選択
  • ダッシュボードで1週間分の感情と食行動を可視化
  • AIフィードバック:「今夜の食欲はストレスが原因の可能性があります」などの自動メッセージ

支援者として思うこと

これらのプログラムは、食生活や過剰なダイエットの見直しだけではなく、自分自身への気づき、他人の心を想像する力を強化することが治療になり得ることを示唆しています。摂食障害自体が、心身に大きく影響を与えるため、冷静、客観的に、物事を捉える力は低下しやすいと言えます。摂食障害は自分がどのような人間なのか、他人とはどのような存在かが、密接に関わっています。他者の評価に敏感とも言えるし、自分自身が非常に完璧主義傾向で、厳しい条件を課していないと、安心できないという表現もあり得ます。個人的には、摂食障害は、これまでの対人関係やストレスの対処法略が大きく影響しており、そして摂食障害自体が苦しいものであると同時に、自分が生き延びるための方法になっていると感じることが多いです。ですので、摂食障害が自分にとって何なのかを見つめ直しつつ、本質的に自分が欲しているものが手に入る方法を再考する中で、少しずつこれまでと違った方法を試していけるようになるように思います。

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