愛着とカウンセリング

愛着とは何か?

愛着とは、人間を始め多くの動物が、辛いと感じるときに誰かから保護を求める習性のことです。幼少期には、保護を求める相手は主に養育者になります。子供がどのように保護を求め、親がそれにどう応じるかが、対人関係や感情の調整に影響を与えます。愛着にはいくつかのパターンがあり、自分の愛着パターンを知ることで、親密な対人関係やストレスがかかった時の傾向を理解できます。

愛着のパターンには次のようなものがあります。

  • 安定型:情緒的に安定しており、自分や他人を信じられる。
  • 不安型:他者の評価に敏感で、自分を信じられず他人を信じる。
  • 軽視型:自己完結し、自分を信じるが他人を信じない。
  • 混乱型:人が近づくと混乱し、自分も他人も信じられない。

愛着とは、感情的に辛くなった時に発動する人間の本能です。愛着の型により、辛くなった時の反応が異なります。不安が強くなり、助けを過剰に求めることを、愛着活性化訪略といいます。逆に、辛くなった時に、愛着を抑圧することを、愛着非活性化法略と言います。

愛着が発動するタイミング

愛着が発動する時とは、辛い感情が起こる時です。感情とは、怒り、悲しみ、寂しさ、不安、虚しさなどです。人は、このような辛い感情を放置しておくことができません。感情は、私たちが生存する確率を高めるために、問題を解決するよう促すからです。基本的に、人はこのような感情を感じる時に、人に近づく習性を持つというのが愛着理論の考え方です。人によって、この愛着を過剰表出したり、逆に抑圧したりします。人が感情を経験する時とは、以下のような時です。

  1. 不安やストレスがある時
  2. 自己評価が脅かされた時
  3. 葛藤や矛盾が生じた時
  4. トラウマ経験(思い出したくない、再体験したくない)
  5. 集団圧や期待を向けられた時
  6. 欲求や衝動を抑えなくていはいけない状況

愛着活性化法略

辛くなった時には、不安が強くなるのがこのタイプです。相手に自分の悩みが理解されるか、悩みを打ち明けたら相手が嫌がるのではないか、必要な助けを得られないのではないかと考え、不安になります。結果的に、人への要求が強くなったり、自分に関心を向けてくれることを確認したくなることが多いです。これが過剰になると、相手の気を引くために過激な試し行動に発展します。求められる相手も困ってしまうのですが、それを見てさらに不安になってしまうのが愛着不安型です。逆に、どうせわかってくれないと人との接触を避けるのは、回避という対処方法です。回避することにより、傷つきを避けることができるからです。誰かにわかってもらいたい気持ちはあるのですが、直接人に訴えたり、関係を持つことが億劫に感じます。人と接触する際に、手軽に繋がれる方法や、ネット、ゲームの世界で過ごすことを好む方が少なくありません。

愛着非活性化法略

困った時ほど、人に助けを求めず、助けてもらいたいという感情を持つことに嫌悪感を抱く人がいます。このタイプの人は、自分で解決できることに価値を置き、限界まで自分を追い込んで、学習や仕事にのめり込むことが少なくありません。当然、人と関わることは最低限になるか、自分の内面を話さずに済む関係を好むようになります。辛い感情を切り離すことに慣れているため、ストレスや疲労を自覚しない人もいます。このような方が、自分のキャパの限界を超えたり、距離感の近い人間関係に身を置くと、非常に強いストレスを感じます。結婚、子育てなどがその例です。仕事で部下を指導する立場になると、何も助言しなかったり、逆に強く指導しすぎて、パワハラになってしまう方もいます。いくらストレスを感じずにいても、体には限界があります。突然の燃え尽きやパニック症、医学的に説明がつかない痛みや身体の動きの障害が起こることもあります。長期間、体のバランスが崩れた状態で過ごした結果である可能性があります。

愛着と自己理解

安定型の親に育てられると、子供の情緒は安定しやすくなります。安定型の親は、子供のニーズに気づき、試行錯誤しながら適切な対応をします。これを親のミラーリングと言います。子供は、親が自分の気持ちに気づいてくれることで、自分の欲求を理解できるようになります。

子供は、気づいてくれる人を信頼し、辛くなると泣いて親とやり取りを通して、自分の感情を言葉に置き換えるようになります。誤解も生じますが、それを克服することで、自分の心が他人とは異なることを自覚し、自分の心を自分のものと認識します。

安定型の人は、物事をバランスよく見ることができ、感情と思考、主観と客観などを適切に使い分けます。他人と自分のバランスを保つことで、人間関係も円滑になります。愛着は3歳までに獲得されると言われていますが、時間をかけて努力すれば、誰でも物事をバランスよく見る力を養うことができます。これを獲得型愛着と呼びます。

愛着とメンタライジング

愛着安定型の人は、自他の心理状態をバランスよく捉える力が養われており、これをメンタライジングと言います。自分の欲求と他者の期待をバランスよく洞察することは、社会生活においてとても大切です。自分の内面を過剰に洞察すると、細かなことが気になりすぎてしまって、非常にストレスフルです。また、他人の評価や客観的な自分がわからなくなってしまい、自分を過信したり、過小評価したりすることが常態化してしまいます。人の内面の洞察も、相手のことを察してあげることでうまくいくこともありますが、過剰になると人の表情を常に読み込んで不安が強くなってしまいます。このような、自分と他人の心を想像することをメンタライジングと言います。メンタライジングには、4つの極があります。

  • 自分の内面、他人の内面か?
  • 外面から洞察するか、内面(主観)を洞察するか?
  • 洞察が自動的に起こるー洞察を抑圧するか(思考の回避)
  • 感情(感覚)から洞察するか、思考(理性)で洞察するか

メンタライジングを促進する心理療法を、メンタライゼーションベースドセラピー(MBT)と言い、イギリスの心理学者ピーター・フォナギーとアンソニー・ベイトマンによって開発されました。メンタライジングは、他者との関わりの中で発達し、情緒の安定や対人関係の改善に繋がります。虐待やネグレクト、極度のストレスなどによって、メンタライジング能力が低下すると、情緒が不安定になり人間関係が苦しくなります。しかし、この能力を高めることで、情緒の安定や対人関係の改善、自分と他人の欲求や動機の理解、自分の感覚の安定などが可能になります。

当オフィスのカウンセリングでは、メンタライジング能力を高め、感情調整能力や対人関係の円滑化を目指します。カウンセリングの中では、お話を聞かせていただき、心理士との関係の中で起こっている事柄から見立てを共有させていただきます。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。