愛着とカウンセリング

愛着とは何か?

今日、愛着に関連する情報が多くあり、どのように自分に応用すればよいのか、対人関係や生きやすさにどう繋げるかに悩まれる方が少なくありません。3歳までに愛着が決定され、それ以降は変えようがない、愛着は母親だけに責任があると考えられる方もいるようです。ここでは、愛着をどのように生活に活かすか、筆者なりの見解をお伝えできればと思います。

まず、愛着という言葉の心理学的な意味とは、人間(動物も)が持つ、不安を感じるときに誰かから保護を求ようとする習性のことです。幼少期には、保護を求める相手は主に養育者になります。子供がどのように保護を求め、親がそれにどう応じるか、その経験の記憶が、対人関係や感情の調整に影響を与えるという考え方です。子供は基本的には、親の助けがなくては生き延びられません。したがって、親から世話を引き出す行動は、生存の上で重要なことです。だからこそ、親との間で身につけた行動は記憶に深く残りやすく、変えにくいとも言えます。

ただ、自分のパターンに気づき、新しい関係性や物の見方を学んでいくことで、徐々に変えていくこともできるものです。時間と労力はかかりますが、その過程は意味深い物だと私は思います。愛着には、いくつかのパターンがあります。自分の愛着パターンを知ることで、人と親密になるときの反応や、ストレスがかかった時の行動傾向を理解できます。

愛着のパターンには次のようなものがあります。

  • 安定型:情緒的に安定している。自分や他人を信じ、それほど不安にならず助けを求める。
  • 不安型:不安になりやすい。自分や他人を疑いやすい。助けを求めることが不安。
  • 軽視型:自己完結しやすい。自分を信じて、他人を信じない。助けを求めることに嫌悪感を抱く。
  • 混乱型:親密になると拒絶、回避したくなる。親密さ、保護を強く求めてもいる。

愛着とは、感情的に辛くなった時に発動する人間の本能です。愛着の型により、反応が異なります。不安が強くなり、助けを過剰に求めることを、愛着活性化訪略といいます。逆に、辛くなった時に、愛着を抑圧することを、愛着非活性化法略と言います。

愛着が発動するタイミング

愛着が発動する時とは、辛い感情が起こる時です。感情とは、怒り、悲しみ、寂しさ、不安、虚しさなどです。そして、罪悪感、恥、嫉妬などもあるでしょう。人は、このような辛い感情を放置しておくことができません。感情は、私たちが生存する確率を高めるために、問題を解決するよう促すからです。基本的に、人はこのような感情を感じる時に、人に近づく習性を持つというのが愛着理論の考え方です。人によって、この愛着を過剰表出したり、逆に抑圧したりと、対処法略が異なります。人が感情を経験する時とは、以下のような時です。

  1. 不安やストレスがある時
  2. 自己評価が脅かされた時
  3. 葛藤や矛盾が生じた時
  4. トラウマ経験(思い出したくない、再体験したくない)
  5. 集団圧や期待を向けられた時
  6. 欲求や衝動を抑えなくていはいけない状況

愛着活性化法略

辛くなった時に、不安が強くなるのがこのタイプです。相手に自分の悩みが理解されるか、悩みを打ち明けたら相手が嫌がるのではないか、必要な助けを得られないのではないかと考え、不安になります。結果的に、人への要求が強くなったり、自分に関心があることを確認したくなることが多くなります。これが過剰な場合、見捨てられ不安ためし行動という呼び方もできます。求められる相手は負担を感じ、結果的に拒絶や対立を生みます。辛い時に不安が強くなってしまい、相手に避けられてしまうことで、さらに保護や承認を求めたくなるところに悪循環があります。この愛着不安が辛いため、どうせわかってくれない、傷つくくらいなら一人でいようと人との接触を避ける人もいます。これは、愛着の回避です。傷つきを避けることができますが、保護や承認は得られません。人と関わる際に、親しくなる手間や葛藤を避けるために手軽に繋がれる方法(浅い関係)や、ネット、ゲームの世界で過ごすことを好む方が少なくありません。

愛着非活性化法略

困った時ほど、人に助けを求めず、助けてもらいたいという欲求に嫌悪感を抱く人がいます。このタイプの人は、自分で問題解決できることに価値を置き、限界まで自分を追い込んで、学習や仕事にのめり込むことが少なくありません。当然、人と関わることは最低限になり、自分の内面を話さずに済む関係を好みます。辛い感情を切り離すことに慣れているため、ストレスや疲労を自覚しない人もいます。このような方が、自分のキャパの限界を超えたり、距離感の近い人間関係に身を置くと、非常に強いストレスを感じます。また、自分の中にある虚無感や不安を切り離す方法がなくなることは、非常に脅威的で、人生を揺るがすような状態だと捉える方が少なくありません。具体的には、結婚、子育てなどがその例です。仕事で部下を指導する立場になると、何も助言しなかったり、逆に強く指導しすぎて、パワハラになってしまう方もいます。いくらストレスを切り離せていても、限界はあります。突然の燃え尽きやパニック症、医学的に説明がつかない痛みや身体の動きの障害の背景には、愛着回避が潜んでいることが少なからずあります。

愛着によりもたらされる能力

愛着によってもたらされる恩恵はさまざまですが、その中核は、感情の制御、心の状態を理解する力です。感情の制御はさまざまな場面で必要です。新しことに挑戦する時、困難を体験する時、感情の制御ができなければ、忍耐ができません。同様に、他人の心を理解できければ、対人関係で対立や孤立を招きます。自分の心の理解とは、自分の欲求、意図、必要がわかるということです。これがわからなけば、モチベーションを維持したり、目的意識を持つことが困難になります。このような能力は、どのように獲得されるのでしょうか?愛着理論では、安定型の親に育てられると、子供の情緒は安定しやすくなると考えます。なぜかというと、安定型の親は、子供のニーズに気づき、試行錯誤しながら適切な対応をするからです。これを親のミラーリングと言います。子供は、親が自分の気持ちに気づいもらう体験を通して、他者を信頼することができるようになります。また、子供は自分の欲求を親に説明するという経験を通して、自分の欲求を理解できるようにもなります。

子供は、自分のニーズに気づいてくれる人との対話を通して、自分の感情を言葉に置き換えることを学びます。誤解も生じますが、それを克服することで、自分の心が他人とは異なることを自覚します。これを自他境界線と言います。見解の異なる親、大人に自分の心の状態を説明する場があること、大人側にこれを聞くゆとりがあるならば、このような信頼関係と自己理解が育まれます。これを認識的信頼と呼びます。

安定型の人は、物事をバランスよく見ることができ、感情と思考、主観と客観などを適切に使い分けます。他人と自分のバランスを保つことで、人間関係も円滑になります。愛着は3歳までに獲得され、その後には手遅れだと言う人がいますが、これは誤解です。確かに、幼少期に学んだ愛着は変えにくい側面はあります。愛着は関係性の中で学んだことですから、時間をかけて、これまでとは違った物の見方、関係性の育みをすることで、徐々に変わっていきます。これを獲得型愛着と呼びます。関係の問題は、関係の中で変わっていくということです。

愛着とメンタライジング

愛着安定型の人は、自他の心理状態をバランスよく捉える力が養われていると考えられます。この心理状態を想像する力を、メンタライジングと言います。自分の欲求と他者の期待をバランスよく洞察することは、社会生活においてとても大切です。自分の内面を過剰に洞察すると、細かなことが気になりすぎてしまって、非常にストレスフルです。また、他人の評価や客観的な自分がわからなくなってしまい、自分を過信したり、過小評価したりすることが常態化してしまいます。愛着不安型、回避型、混乱型には、メンタライジングの偏りがあり、それが感情制御や対人関係を困難にします。メンタライジングには、4つの局面(何をメンタライジングするか、どのようにメンタラジングするか)があります。

  1. 自分←→他人
  2. 内面(欲求、意図など)←→ 外面(外見、立場など)
  3. 直感(衝動的、理屈を挟まない)←→熟考(常識的、恣意的)
  4. 感情(情動に強く反応)←→思考(理性的、感情を挟まない)

1, 自分と他人

自分の心理をメンタライジングしすぎると自己中心的になりますし、自分の視点にとらわれてしまいます。そしてあまり突き詰めて考えていくと、自分の考えが本当に自分の考えなのかというような疑念も生まれてきます。逆に、他人の心理を想像することは、社会生活においてとても重要です。しかしながら、他人の心理というのは、実際に話を聞いてみたり、関わりを持つ中でわかってくる側面もあります。他人の心理を想像するには限界があることも踏まえた上で考えていく必要があります。他人の意図や欲求を完全に無視すると、対人関係では衝突が生じます。また、「自分だったらこう考えるから相手もこう考えるだろう」という想像は、時に偏っていることがあります。その人の言動や、これまでの経緯などを踏まえて他人の心を想像していくことが大事です。そして、他人のことを想像しすぎると、自分のことがわからなくなっていくということがあります。逆も同様です。いずれにしても、自分の心理も他人の心理も、バランスよく両方の側面から想像していくことが重要になります。

2. 内面と外面

そして、内面から自分や他人の心理を想像していくパターンがあります。相手は何を思っているのか、どんな意図があるのか、それを分析しようとすることは、内面のメンタライジングといいます。ただし、内面のメンタライジングには深い思考が必要になるため、外面的な部分から即時的に判断していくことも重要になります。相手の態度や姿勢、立場などから、ある程度はその人の内面を想像することができるかもしれません。しかし、見た目だけで判断できないこともたくさんあるため、外面からだけでその人の全人格を判断することはできない、ということになります。また、過剰に内面的なことにとらわれると、それはある意味で主観的であり、その要求が本当に確かなものなのか、あるいは単に感覚的に「嫌だ」と感じているだけで、理性的には何ら問題がないこともあるかもしれません。したがって、外面的、つまり客観的に物事を考えていく必要もあります。これも先ほどと同様に、内面と外面の両方から物事を捉えていくことが重要になります。

3. 直感と熟考

そしてもう一つは、直感か熟考かという視点です。直感的なメンタライジングは、理屈を挟まず、即時的に行われるものです。自分に何らかの危険が及んでいるときには、直感的に判断することがあり得ます。ただし、実際には危険がないにもかかわらず直感で判断してしまうと、本質的に何がリスクなのかがわからなくなることがあります。ですので、ある意味では、よく考えて常識や原則に照らし合わせて判断することも重要です。しかし、あまりにも熟考しすぎると、かえって判断がつかなくなったり、頭の中で様々な思考が駆け巡って、結局決断ができないということも起こり得ます。

4. 感情と思考

さらに、感情的にメンタライジングするか、思考的にメンタライジングするかという視点もあります。感情というのは、興奮・衝動・苛立ち・切迫感など、強い感覚を身体にもたらすものです。たとえば人前で話していて動悸がしてきたら、動悸が強まるほどに「自分は困難な状況に直面しているのだ」と思うかもしれません。逆に、思考で状況を捉えている場合は、非常に理性的とも言えます。しかし、人は非合理的な感情を抱く存在でもあります。理屈では問題がないと言えても、人は不快に感じることがあります。つまり、思考的には問題がないと思っても、その人にとっては“感情的に”問題になっているということがあるわけです。したがって、相手の抱いている感情をあまりに思考的に捉えると、共感性を欠き、冷たい人と思われてしまうかもしれません。

このようなメンタライジングの偏りは、愛着スタイルや発達特性、パーソナリティなどによって異なります。いずれにしても、このような条件下では、どちらか一方のメンタライジング様式に過剰に集中しており、他の視点を柔軟に持てないことが問題となっています。自分のメンタライジングの癖に気づくこと、そして普段はあまり目を向けていない側面に意識を向けてメンタライジングを行っていくことで、バランスが整い、両方の視点を持つことができるようになります。

これがなぜ愛着と関連するかというと、愛着安定型の人は、さまざまな体験や対人関係の摩擦、不快感を乗り越えてきた経験が多いため、両極から物事を見るメンタライジングを多角的に行うことに慣れているからです。一方で、愛着に課題がある場合には、このメンタライジングが偏っているため、安定型の人がしているように、少しずつ多角的なメンタライジングを習得していくことが、治療や支援のプロセスとなり得るのです。

Mentalization based therapy (MBT)

メンタライジングを促進する心理療法を、メンタライゼーションベースドセラピー(MBT)と言い、イギリスの心理学者ピーター・フォナギーとアンソニー・ベイトマンによって開発されました。メンタライジングは、他者との関わりの中で発達し、情緒の安定や対人関係の改善に繋がります。虐待やネグレクト、極度のストレスなどによって、メンタライジング能力が低下すると、情緒が不安定になり人間関係が苦しくなります。しかし、この能力を高めることで、情緒の安定や対人関係の改善、自分と他人の欲求や動機の理解、自分の感覚の安定などが可能になります。

当オフィスのカウンセリングでは、メンタライジング能力を高め、感情調整能力や対人関係の円滑化を目指します。カウンセリングの中では、お話を聞かせていただき、心理士との関係の中で起こっている事柄から見立てを共有させていただきます。ご興味のある方は、気軽にお問い合わせください。

参考文献

Bateman, A., & Fonagy, P. (2016). Mentalization-based treatment for personality disorders: A practical guide. Oxford University Press. 

Bateman, A., Fonagy, P., Campbell, C., Luyten, P., & Debbané, M. (2023). Cambridge Guide to mentalization-based treatment (MBT). Cambridge University Press. 

Wallin, D. J., & Souer, B. (2017). Attachment in Psychotherapy. Guilford Press.