愛着とカウンセリング

愛着とは、人間を始め、多くの動物が辛いと感じる時、誰かから保護を求めようとする習性のことを言います。幼少期であれば、保護を求めるのは養育者になります。子供がどのように保護を求めるか、そして親がどのようにそれに応じるかにより、対人関係や感情の調整に影響をもたらします。愛着にはいくつかのパターンがあります。自分の愛着のパターンがわかると、近い距離になった対人関係での立ち振る舞いや、ストレスがかかった時の傾向を知ることができます。

  • 安定型:情緒的に安定、自分を信じられる、他人を信じられる
  • 不安型:他者の評価に敏感、自分を信じられない、他人を信じる
  • 軽視型:自己完結に徹する、自分を信じる、他人を信じない
  • 混乱型:人が近づくと混乱、自分を信じられない、他人を信じられない

愛着安定型の親に育てられると、子供の情緒は安定すると考えられています。愛着安定型の親は、子供が何かを感じていることに気づくことができます。もちろん、子供が欲していることを完璧に予測することはできません。子供の心理状態を想像しながら(お腹が空いたのかな?、抱っこして欲しいのかな?)、何か(ミルクをあげる、抱っこする)を提供します。試行錯誤の末、子供のニーズと親の予想が一致した時、お互いが安心することができます。子供は、基本的に、自分の心理状態を親に気づいてもらい、何かを言ってもらったり、してもらうことで、自分が何を欲しているのかがわかるようになります。これを親のミラーリングと言います。人は、他人に映る自分を通して、自分を見るからです。カウンセラーが目指していることは、適度な鏡となることだとも言えます。

子供は、気づいてくれる人を信頼するようになります。子供は辛くなると泣きますが、親と言葉のやり取りを介して、辛さを言葉に置き換えるようになり、親の理解を得るためにさまざまな表現をするようになります。親とはいえ、やはり別個の人間ですので、自分の心理状態を理解してもらうためには、さまざまな角度から説明しなくてはいけません。誤解も生じますが、このようなすれ違いを克服しながら、関係が継続していくことで、自分の心を他人とは違う固有の心なのだと自覚していきます。他人と自分の心が違っても、関係が破綻しないという経験を通して、自分の心を自分のものと認識できるのです。

愛着安定型の親に育てられた子供は、愛着安定型になる確率が高いとされてます。愛着安定型の人は、物事の見方にバランスが取れています。他人と自分、感情と思考、主観と客観など、両局から物事を眺めることができます。人間関係においては、どちらかに偏るととても難しい状況が生じます。他人のことばかりを考え、自分の心理状態を無視していては、空虚感と燃え尽きが生じるでしょう。感情に振り回されてばかりでも、理詰めで思考することに執着していても、物事はうまくいきません。主観的に自分がどう感じているかも大事ですし、客観的に自分がどのような状態であるかを知ることも、物事を進めていく上では大事です。愛着安定型でない場合には、この物事の見方が非常に偏りやすく、それに気づきにくいことが多いでしょう。愛着は3歳までに獲得されていて、修復できないと考えている方がいます。これまでの研究で明らかになっていることは、時間をかけていけば、物事の捉え方の偏りを自覚し、さまざまな角度から物事や自他の心理状態を捉える練習により、人は変化していけるということです。このような取り組みを経て、愛着安定型に近づいていくことができるからです。これを獲得型愛着と呼びます。

愛着安定型は、自他の心理状態をバランスよく捉える力が養われています。自他の心理状態を捉える時、完全に相手の心理を読めていても、全く予想がつかなくても大変です。完全に相手の心理が読めてしまったら、人を信じたり、興味を持つことは難しいでしょう。逆に、全く自他の心理が読めないとしたら、何にも判断基準を持つことができず、混乱に満ちた人生になるでしょう。このように、自他の心理状態をバランスよく、主観的にも、客観的に捉えられる能力のことをメンタライジングといいます。このメンタライジングの促進を主眼に置いた心理療法を、Mentalization based therapy(MBT)と言います。イギリス人の心理学者であるPeter FonagyとAnthony Batemanによって開発されました。メンタル=心ですが、心を心として眺める力ということですが、日本語に置き換えることが難しい表現です。私は、メンタライジングを心理状態を知る力と置き換えて理解しています。

このメンタライジングは、メンタライジングがある程度できる人との関わりの中で、発達していくものです。虐待やネグレクトによって、この発達が妨げられてしまうことがあります。または、極度のストレス、対人関係の断絶、不破などでも、メンタライジング能力は下がることがあります。すると、情緒的に不安定になり、人間関係が苦しくなります。逆に、メンタライジング能力を高めていくと、下記のようなことが可能となります。

  • 情緒が安定する
  • 対人関係が安定する
  • 自分、他人の欲求、動機、意図がわかる
  • 自分と人の違いに気づき、他者の評価や要求を踏まえながら、自己選択できる
  • 自分という感覚が安定する
  • 自分にとって良いと思える行動を選択できる

境界性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害などにおいては、自己概念が強固すぎたり、不安定になることが特に多くなります。自分が誰かわからないから、他者からの承認を過度に求めてしまったり、自分は他人と違うと確信しているから、他人に理解を示したり、理解を得る工夫をしなくなったりするからです。度合いはありますが、メンタルのコンディションが良くない状態の時には、このメンタライジングの偏りがよく生じています。愛着安定型は、物事をバランスよく見ることができると先に申し上げました。当オフィスのカウンセリングでは、メンタラジングは感情調整能力を高め、対人関係を円滑にすることを目指します。カウンセリングの中では、お話を聞かせていただき、また心理士との関係の中で起こっている事柄から、見立てを共有させていただきます。ご興味があります方は、気軽にお問い合わせをいだければ幸いです。

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