死別と悲嘆

死別は、多くの人にとって非常に辛く、その後の生活に影響をもたらします。大切な人を失った後に現れる心の反応を悲嘆と言います。強い悲しみ、無力感、罪悪感、怒りなど、複雑な感情が入り混じり、情緒的に不安定になりますが、これは自然な反応です。悲しみがなくなるわけではありません。しかし、一般的には、徐々に悲しみと共に生活ができるようになり、悲しみを傍に置きながら、活動を行うようにもなります。

しかし、死別後も長期にわたり強い悲しみが続き、日常生活に著しい支障を来す場合、「持続性複雑死別障害(Prolonged Grief Disorder:PGD)」と呼ぶことがあります。故人のことが常に頭にあり、死別した事実を認められない、故人の死を思い出すことがあまりに辛く、それに関連した人、場所、活動などを避けてしまう状態です。

死別に伴う強い悲しみは、心の痛みとも言えます。その理由は様々ですが、「愛着の喪失」があるからだと考えることができます。愛着とは、人が辛い感情を抱く時、愛着対象となる人に近づき、話をしたり、宥めてもらおうとする本能です。愛着は、幼い頃は生存を維持するものであり、大人になってからは、情緒的な安定やアイデンティティ(親、配偶者など)になります。これらが喪失されると、これまでに無意識的に機能させていた生活が壊れてしまうため、非常な混乱と不安が生じるのです。

Wordenは、悲嘆のプロセスを「4つの悲嘆の課題(Tasks of Mourning)」と提唱しました。その内容は、①喪失の現実を受け入れること、②悲しみの痛みに向き合うこと、③喪失のない世界に適応すること、④亡くなった人との情緒的なつながりを保ちつつ、新たな人生を歩むこととしました。情緒的なつながりを保つとは、故人のことを思い出したり、心の中で対話をしたりすることです。

また、Neimeyerは、「意味の再構築(meaning reconstruction)」が悲嘆に必要だといいました。喪失体験は、私たちのアイデンティティ、人生観、世界感を揺るがします。このような信念は、その人にとっての意味いう世界と捉え、喪失によって変わってしまった自己や人生の物語を、改めて考え直すことが悲嘆だと主張しました。

StroebeとSchutによる「二重過程モデル(dual process model)」は、悲嘆を考える上で、もっとも重要な理論の一つです。二重過程モデルでは、喪失そのものに向き合う「喪失志向」と、自分らしい新しい世界を構築していく「回復志向」という2つの適応を揺れ動くことが、健全な悲嘆のプロセスだと考えます。

喪失の仕方、故人との関係性、孤立、悲しめない環境、罪悪感などにより、悲嘆のプロセスや、意味の再構築が滞ることがあります。このような状態に対する心理療法として注目されているのが、Shearらによって開発された「複雑性悲嘆療法(Complicated Grief Therapy: CGT)」です。これは認知行動療法を基盤にして、故人との記憶を振り返ること、今の生活を再検討することを支援します。悲嘆が進行しない理由を探りつつ、多くの人が悲嘆の中でしていることを取り入れていきます。

当オフィスでは、死別を経験された方を対象に、こうした理論に基づいた心理支援を行っています。喪失は消えることのない体験ですが、その意味を捉え直すことで、生きる力を再び取り戻すことは可能です。