強迫性障害

下記では、基本的な症状について説明しています。

強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder: OCD)とは、洗浄、確認、おまじない、ジンクスなどが過剰となり、日常生活に支障を来たす精神疾患です。

症状は

  • 振り払いたくても振り払えない受け入れ難い考え→「強迫観念」
  • 強迫観念に伴う不安、不快感、違和感を除去するための、過剰化した特定の行動→「強迫行為」

に分類できます。

症状の形は様々です。

手洗い、持ち物を洗う(拭き取る)、帰宅時に風呂場にすぐに行く、家族にも入浴させる、入浴、排便後の拭き取り、アルコール消毒、血液、分泌物、見えない汚れ(ばい菌、放射線などの汚染物質)を洗浄、除去する、これらが付着した可能性のあるものを避ける、戸締りを決まった回数行う、火の元の黙認、熱を発していないか触る、特定の数字を避ける、頭の中で数字や言葉を思い浮かべる、

など、他にもたくさんあります。

その他にも、

  • Cognitive type: 汚染の拡散や健康被害など、懸念を排除するために強迫行為をする
  • Motric type: しっくりこない、不完全感が耐え難い(Just Right Feeling(ぴったりくる感じ)とも呼ばれ、しっくり感を過度に追求することが症状)

強迫性障害の原因は、はっきりとはわかっていません。

しかしながら発症の背景には、思春期の葛藤、いじめ、被虐経験、パワハラ、トラウマ、喪失体験などが珍しくなく、強迫性障害の悪化の原因となっていることがあります。不安を感じやすい体質の方もいれば、不安・緊張の高い中で生活し、不安軽減や自己承認を満たす行動が過剰化して、強迫性障害に行きついている方もいます。ほとんどの方が強いストレスがかかったときに、強迫性障害を発症しています。悪化のタイミングも、人間関係や燃え尽きなどが関与することが非常に多いです。

近年の脳画像研究には、

  • 本来、危険ではない事柄を脳が危険であると誤認したり、過大評価してしまう
  • 行動に関連する脳の抑制がうまく働かない(一度洗浄、確認を始めてしまうと止められない)

など、脳内の情報処理の問題であると指摘するものがあります(眼窩前頭皮質、線条体、視床が関与する)。うつ病などに関連するセロトニン、ドパミンなどの脳内物質の関与も示唆されていますが、はっきりとした原因は解明されていません。

症状を悪化させる心理的要因(例:家族関係、居住環境、ひきこもり)がある場合、薬物療法だけでは改善しないことがあります。他の精神疾患との重複(うつ病、PTSD)、喪失体験、過度なストレス、出産なども、症状を悪化させる原因です。家族と同居をしている方は、衝突や本人の感情爆発を回避するために、家族が強迫行為を手伝ったり、強迫行為に合わせた生活パターン(accomodation=巻き込まれ)が生じます。これは、非常によく起こることですが、主要な症状の悪化要因です。

汚染強迫

洗浄強迫とは、手洗いや入浴、掃除や消毒などを必要以上に行い、生活に支障が出る状態を言います。メディアで取り上げられることが多いのも洗浄強迫です。これは、症状が目に見えるからかもしれません。しかし、頭の中で汚れの有無を確認する人もいるため、心の中で行う儀式(心的儀式)と重なることもあります。重症になると、手洗いや入浴に数時間から10時間以上かけるケースもあります。家族にも入浴や消毒を強制し、家族が家に入れない、自由に行動できないことも少なくありません。多くの場合、すべてに対して洗浄を行うわけではなく、特定の場所や状態だけが気になり、それ以外は掃除しない、洗わないという人もいます。

洗浄強迫の多くは、ある時点で汚染に気づき、そこから執拗に洗浄を繰り返すようになります。発症してからの期間が長くなると、洗浄の方法は複雑になり、時間もかかるようになります。綺麗になったという感覚も得にくくなり、さらに洗浄が過剰になります。洗浄している間に感情が高まると、何回洗ったか、何回拭いたかを把握できなくなり、やり直しを繰り返すこともあります。もともとは清潔感を保つための洗浄が、逆に負担になってしまい、入浴が長くなるのを避けるために入浴しない、手洗いや掃除を避けるために外出しないということにもつながります。

これを治すためには、まず、なぜ洗い始めたのか、何が汚れの対象かを振り返ってみることが大切です。必要だから洗浄を行うわけですが、本当に必要か、必要であればどの程度が適切かを理解することが重要です。そうしないと、どこまで強迫行為を減らして良いのか分からず、終わらないレースに巻き込まれることになります。よく勘違いされますが、洗浄自体は悪ではありません。誰もが外出から戻ったら手を洗いますし、掃除や入浴も清潔を保つために必要です。適切な量になればよいので、不潔になる必要はないということです。これを理解し、現在の洗浄が過剰であるという認識を得たら、次のステップに進みます。

強迫行為をやめるには、汚れている感覚に耐える力を高める必要があります。病気の期間が長くなると、実際には汚れていないのに汚れていると感じやすくなります。だから、少しの感覚でも洗浄を始めてしまいます。急にやめることはできないので、普段の洗浄や掃除の方法を変えたり、短時間で終わらせたりすることから始めます。これだけでも不安を感じられ、それに耐える経験を積むことが大切です。強迫行為を変える試みを始めた頃は負担が大きく、自分を責めたり、落ち込んだりしやすいです。儀式をせずに不安を感じることを成功体験とし、その体験を積み重ねていくことが重要です。

徐々に汚れている感覚に耐えられるようになると、実際に汚れているのとは違うことに気づきます。洗浄しない方が楽だという経験も増え、さらに減らしてみようと思えるようになります。家を聖域にし、汚れを持ち込まないようにしている人は、家を汚すことを非常に恐れます。この場合、一時的に環境を変え、不安や不快感に対する過敏さを減らすことが試みられます。環境が変わると強迫行為が再現されないこともあり、健康的な生活が戻ってくることもあります。ある程度健康で余裕がないと、なかなか変化は起こせません。基盤を整えることで、回復が早くなることも少なくありません。

確認強迫

確認強迫とは、戸締りや火の元、持ち物の確認や汚れの確認などを過剰に行い、生活に支障が出る状態を言います。確認が長引くと、外出できなかったり作業が進まなかったりするだけでなく、本人も非常に疲れてしまいます。また、家族に確認を手伝わせたり、何度も質問を繰り返すことで、家族関係が悪化することもあります。

これらを曝露療法で治療する方法を説明します。曝露反応妨害法の基本は、不安を感じながらも強迫行為をしないことです。曝露療法がうまくいっているかは、強迫行為が再発していないかどうかで判断します。確認をしないことが耐えがたく、不安が強くなるのは普通なので、その時点で過度に自分を責めたり、悲観的にならないようにしましょう。不安を感じるためには、強迫行為を保留する必要がありますが、実際の行動を止めても頭の中で強迫行為が続くことがよくあります。この状態では曝露療法がうまくいっていません。確認強迫の場合、頭の中での儀式に移行しやすいため、不安だけに直面するのが難しいです。そこで、不安な感覚をまず認識する練習を行い、言葉で表現できるようにし、その感覚だけを直視する練習をすると良いでしょう。また、確認以外の行動を挟む方法もあります。常識の範囲内で、多くの人が行っている行動や本来やるべきことをするのが良いです。ただし、行動を切り替えても頭の中での確認が続くことがあるため、やろうとしている行動に集中し、不安を感じながらも別の行動を取る練習を続けます。徐々に、別の行動をしている間に強迫観念が薄れ、良い意味で忘れることができるようになります。

このようになってくると、強迫観念は自分の行動でコントロールできるという考え方が芽生えます。少しでもコントロールできると感じたら、それは非常に良いことなので、強迫行為が完全に消えなくても、自分を褒めてあげてください。コツを掴むまでは失敗することもありますが、慣れてくると確認をしない時間が増え、確認をしない方が楽だと感じられるようになるでしょう。

縁起強迫

縁起強迫とは、不吉な数字や言葉を見たり聞いたり思い浮かべたりすると、それを恐れる強迫症の一種です。不吉なものは、死や不幸を連想させ、何かをせずにはいられない感覚を引き起こします。自分や家族が不幸になると考える人もいますし、霊やホラー映画のイメージ、宗教上の神などが対象になることもあります。不吉さを感じると、不安や恐怖が湧き上がり、それを無効にするために祈ったり、特定の言葉を言ったり、特定の動作をしたり、良いイメージをしたり、「大丈夫」と自分に言い聞かせたりすることが強迫行為となります。これが増えると、儀式をすること自体が辛くなり、生活が不幸を避けること中心になってしまいます。

強迫性障害の治療には認知行動療法がありますが、縁起強迫には少しコツが必要です。頭の中で考えていることを止めるのは難しく、気づくのも難しいためです。強迫観念に気づくように心掛け、「今、強迫観念が浮かんだ」「何を恐れているのか分からないが怖い」という具合に言語化してみましょう。次に、具体的に何を恐れているのかをはっきりさせます。自分の死や家族の病、不慮の事故など、言葉にするのは怖いですが、少しずつ練習します。この段階に進むのが難しいかもしれませんが、この努力は後の治療を加速します。恐れていることが分かったら、あえてそれを言葉に出したり書き出したりします。そうすると、すぐに強迫行為をしたくなるでしょうが、逆に不安を高めてみます。例えば、「死んでしまう」「呪われてしまう」と考えてみます。

実際に治療を経験した人は、呪いや死を覚悟した時から自由になっていくことに気づいています。回復すると、強迫観念以外のことを考えるようになり、仕事や趣味に集中できるようになります。不吉な考えが頭を過ぎること自体が少なくなり、我慢も減っていきます。不安に耐える力が高まると、覚悟が決まりやすくなり、強迫観念を手放せるようになります。これにより、時間と体力を自分の幸せややりたいことに使えるようになり、縁起強迫から解放されたと言えるでしょう。