試し行動と境界性パーソナリティ

境界性パーソナリティ

好かれたい人、大切な人が、どれくらい自分のことを思っているのだろう?少しわがままを言ってみたり、相手を困らせて反応を見てみたい、そんな思いに駆られたことはないだろうか?このような愛情の確認行動が過剰になったものを試し行動という。境界性パーソナリティ障害(BPD)においては、特徴的な行動の一つである。BPDでは、反射的に試し行動を行ったり、相手を追い詰めてしまうことで、逆に愛情を遠ざけてしまうことが多い。

試し行動が起こる理由は、愛情が手に入らなくなることへの不安がとても強いからだ。今、確かめておかないと、この人は自分から離れていくかもしれない、このタイミングで言わないと聞き入れてもらえないかもしれないというような、非常に切迫した感覚がある。愛情とは、気づいてもらうことである。人間は、この愛情が生命の存続にとても重要である。だから、気づいてもらえないことに怒りや不安を感じる。その理由はシンプルで、人間は生まれた時、心の中は不安でいっぱいだからだ。生まれたばかりの私たちは、身動きができず、言葉も話せない。だから、泣いて気づいてもらう。そうすることで生き延びてきた。徐々に、泣くと大人は何かをしてくれるという記憶が蓄積されていくと、不安が少し減る。言葉で不安を伝えて、話している間に不安が落ち着いたり、大人が助けてくれる記憶がさらに溜まると、不安がもう一段階落ち着く。この気づいてもらう体験が希薄であると、大人になっても、命を失うかのような不安が起きることがある。かつて、気づいてもらうことで我々は生き延びてきたら、その時と同じような感覚になってしまうのである。大人になってから、この方法で愛情を求めると、相手は反発するか、離れていくことになる。すると、必死に相手を引き止めたくなるのが、BPDの心の状態である。

試し行動とは、本人からすると突然怒りや不安に襲われ、突発的な行動をしてしまう感覚だろう。よくあるのは、すぐにできない要求をしたり、ラインブロックなどの関係リセットである。自分を傷つけたり、その予告をして、相手に心配をするように仕向けたり、徹底的な無視をして相手に違和感を抱かせようとする人もいる。相手側からすると、突然怒られた、責められた、拒絶された、追い詰められたと感じることになる。驚いた反応や、戸惑いを見ると、逆に愛情を失う切迫感に満たされてしまう。そんな時、なんで自分がこんな目に遭うんだろう、もし自分が別の人間だったらどうなんだろうという考えが、頭の中を駆け巡ることが多い。

    このような愛情を失うことへの焦りに、どう対処したらよいだろうか?いくつかのステップがあるので、紹介してみたい。まずは、愛情を失うことを恐れていることを認め、試し行動が不安によるものだと気づいていくことだ。不安な時、強引に、必死になってしまうものだ。試し行動が習慣になっている人は、自分が試し行動をしていることに気づいていない。そして、試し行動に気づいたら、少しずつ自分は何を求めているか、自分の言動により相手はどう感じているかを想像する練習をしていくことだ。自分と人の心を想像することを、メンタライゼーションと言う。自分の思考、欲求、行動を客観的に捉えられるようになると、自分の欲しいものを手にいれるために必要な工夫ができるようになっていく。地味なようだが、感情に圧倒されると、感情に流されて行動してしまいがちだ。そして、相手のことも、見下している、愛情がないと思ってしまうものではないだろうか。発した言葉に対して、フィードバックがあるという経験を増やしていくと、徐々に愛情を失う不安が弱まっていく。試し行動は、愛情を失うことへの切迫感から生じるからだ。