医療の難しさ

私は臨床心理士(公認心理師)であり、医療機関での勤務も長かったことから、医師、看護師、理学療法士、作業療法士などの職種との連携もそれなりに機会がある。現在は、私設カウンセリングオフィスを運営しているが、医療機関から紹介を受け入れることも多くあり、医療の役割と医療外の支援機関のあり方を考えることも多い。

医療機関の利点は、①医療保険が使える、②薬物療法、入院などの医療的介入、③他職種の連携(施設の特性による)などである。通常、心身の不調が長期化している場合、カウンセリングや生活習慣の見直しで効果を期待することが難しい。一方で、医療機関の限界もある。①多数の患者を受け入れており、一人の患者さんに割ける時間が少ない、②結果的に、薬物療法が治療の中心となり、対処療法的な内容となることがある、③50分ほどの枠で話を聞ける心理士が在籍しない機関が多いことなどが挙げられる。医療出身の心理士としては、医療と連携しつつ、治療や支援を補う存在でありたいものだ。

心理療法は、対話により自己理解を深め、自分がどのような状況でうまくいき、どのような人といると問題が解決しやすいのか、またはその逆を探っていく。また、自分に合った生活習慣、対人関係のパターンを、現場の状態、能力を鑑みながら試行錯誤していく。情緒的に不安定な時、またはこれまでの対人関係により、これらの認識は難しくなる。このようなスキルが身に付けば、障害に渡って使っていくことができる。一方で、もともと持っている習慣や考え方、人との関わり方というのは、簡単にすぐに書き換えられず、時間がかかる。強いうつ状態にあったり、生活の何も手がつかないほどに不安が強いような方には、薬物療法や入院によって負担を一旦軽減した上で、問題に向き合っていく方が効率的なことがある。

医療機関の特性上、やはり診察時間は短いことが多い。初診は時間を割くことができても、1日何十人もの診察をこなす医師にとっては、出来事の詳細や感じ方を聞き取るだけの時間がない。医師の中には、なるべく話を聞くことを大事にしている先生もいる。患者さんや家族には、敷居が高いと感じて、診察時に思ったように話せないという人もいる。このような場合には、伝えたいことを箇条書きのメモにして渡したり、要点に絞って伝えるとよいかもしれない。こういった悩みは患者さん、その家族からよく話を聞くところで、私のオフィスでは自動精神科医による医療相談という枠を設定している。普段の診察で聞けないことや、医師からの視点での意見を求める方に、利用していただければ幸いである。

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