病気が怖い(病気恐怖症)

健康

私はさまざまな不安で困っている方の支援を行なっているのですが、病気について過度に心配して、受診や病気について調べることがやめられないという訴えを聞くことがあります。がん、HIVなどの医学的な病気、セシウム、アスベストなどによる健康被害など、不安の対象はさまざまです。中には学術論文を読み漁り、さまざまな症例と感じている体の違和感とを照らし合わせ、病気にかからないために、過度な節制をしたり、外出を控えるあまり引きこもりになる方もいます。

健康を願うこと自体が健康と言えるのですが、このような状態になると、心配でいる時間がとにかく長くなり、病気を排除することが人生になってしまいます。家族が巻き込まれることもあって、清潔さの追求、食生活を始め、家族が感染源だと考えて、家庭内別居になることもあります。考えすぎであるとか、そんなことは起こり得ないと説得しても、万が一罹患したらどうしよう?と思った瞬間に、全ての議論はひっくり返ります。

このような状態を病気恐怖症と呼んだり、心気症と言うことがあります。日中、病気のことばかりを考えるようになると、不安がとても強くなります。不安が強くなると、心配している内容が現実のように感じられるのです。ですから、病気かもしれないという思いが、不安が強くなることによって病気に違いないと考えるようになります。このような方は、精神科にも、それ以外の診療科にも少なからずおられます。

このような状態にある方が心配をやめるためには、さまざまな工夫が必要になります。まず初めに、病気を回避するための行動が健康を損ねていることを納得していただく必要があります。不安でいる時間が長いということは、過緊張の状態が続き、ストレスレベルが高いということです。健康に気を配り、健康追求や病気の調査などが不安を強めています。不安が強いということは、ストレス環境下にいるということです。病気を避ける行動や考えが、実は病気を招いています。ストレスがさまざまな病気のトリガーとなることはよく知られている事実です。

病気を避ける理由は、健康を損ねて苦痛のある状態が続くと思っている、または死を早めてしまうから、または今まで健康維持してきた取り組みが無駄になると思うなどが多いです。だからこそ、健康を追求されるのですが、健康でいる人は、楽しみを持ち、充実した日々を過ごし、良好な人間関係を築いています。ですから、病気のコントロールを少しずつやめ、その代わりに健康的な生活を再開、または学んでいただく必要があります。

そうはいっても、すぐに切り替えがつく方はほとんどいません。なぜ、それほどまでに健康に気遣うようになったのか、自分の本来の人生は何なのかを、少しずつ言葉にしていくと、徐々に病気不安を手放す準備が整います。家族が病気になった経験があったり、ストレスを感覚的に感じていないため、身体に相当な負担を強いている(受診時にその自覚がある人はあまりいません)という方もいます。病気不安が良くなっていく時には、その方の生き方が変わっていくことがほとんどです。不思議なもので、何かを得ようとする人はそれを失い、それを失う覚悟を決めた人は逆に得るということがあります。