1. はじめに
考えたくないのに、思い浮かんでしまう思考に悩まされたことはありませんか?失敗するんじゃないか、悪いことが起こるんじゃないかなど、先のことを考えてしまう、または、過去の失敗や傷つきを繰り返し思い出してしまい、辛くなる方がいます。現実的にはあり得ないようなイメージや考えが思い浮かび、怖くなったり、その思考を消そうと必死になってしまう方もいます。このような考えが常に湧いてきたり、それを消そうとすることが過剰になると、日常生活が手につかなくなっていきます。考えたくない嫌な思考やイメージのことを侵入的思考と言います。効果的でない対処を知ることで、侵入的思考のコントロールを身につけることができると思います。
2. 侵入的思考の原因
侵入的思考が起こる理由は、いくつかあります。まずは、ストレスや不安です。このような時、人間の脳は生き延びるために警戒心を高めようとします。そわそわしたり、胸がざわついたりする感覚と共に、「悪いことが起こるかもしれない」、「対処できないかもしれない」という思考が起こるように脳は信号を発します。この時に、私たちの警戒心を高めるために、侵入的思考が沸き起こります。そして、過去のトラウマも理由の一つです。ストレスや不安と似ていますが、私たちの脳は再びトラウマ体験をしないように、警戒心を高めようとします。過去に起こった出来事がフラッシュバックするのは、トラウマの再体験を避けるためです。トラウマに伴う侵入的思考は、恐ろしい場面だけが繰り返し再生されることが多いです。それが故に、トラウマの記憶が実際の出来事よりも、辛いものとして上書きされてしまうこともあります。「自分は全くの無力だった」、「自分のせいでトラウマを負った」というような、罪悪感や恥の感覚は、トラウマの解釈によって生じるものです。全く現実と関係のないイメージや思考が思い浮かぶこともあります。音楽、映像、スピリチュアルに関連するイメージなどが典型的です。いずれにしても、考えないようにすると、余計に侵入的思考が起こってしまうというのが特徴です。
3. 侵入的思考を減らす方法
認知行動療法(CBT)
認知行動療法では、心の状態を思考、感情、身体反応、行動の連鎖で捉えます。侵入的思考は思考ですが、これによって感情が起こります。不安や嫌悪感などが感情です。すると、身体は落ち着かない、もやもやするという反応が起きます。侵入的思考に伴う不安や嫌悪感は辛いので、それを取り去ろうとするという反応が行動になります。侵入的思考で困っている方は、思考は危険なものだ、考えるのをやめないと、今後も考え続けてしまうと思う傾向があります。このように考えると、侵入的思考が起こると、焦りが生じてしまいます。そして、考えないように頭の中で違う思考で上書きをしようとしたり、思考から気を逸らそうとします。これが行動になりますが、侵入的思考は思考で操作しても減らすことはほぼ不可能です。ですので、侵入的思考が消せない苛立ちや不安が生じて、さらに脳が興奮して、侵入的思考が起こるようになってしまいます。
思考の過大評価を見直す
侵入的思考は、切迫感、嫌悪感が伴い、非常に現実感が高くなります。結果的に、思考の力を過大評価することにつながります。悪いことを考えたたら、悪いことをしてしまったのと同じ、嫌な考えは一生続く(後悔し続ける)、侵入的思考があると何もできない、考えている自分が許せないなどの考えは、侵入的思考に対する自分の評価ということになります。このように、思考を危険視する考え方が、侵入的思考を増やしていきます。侵入的思考は誰にでも起こり得る、思考を操作しなければ次第に考えなくなっていく、侵入的思考があってもできることはある、考えは意図せずに起こるものというような、現実的な考え方を身につけていくことが重要です。そして、トラウマに関連する侵入的思考も、トラウマの発生確率が高くなり過ぎてしまうことがよくあるため、現実的なリスク管理が必要です。特に、自分は無力だった、自分のせいでこうなったと思う方は、自分の力を軽視していたり、不可抗力であった点を見過ごしていることが少なくありません。
マインドフルネスと瞑想
マインドフルネスとは、思考や感情に反応しない(行動しない)心理状態を目指すことをいいます。これが自分の心の状態なんだな、という観察だけに留まり、「思考は危険」、「どう対処するのか?」という思考や衝動的な反応をしないようにします。呼吸や身体感覚に注意を向けることで、思考や衝動的な反応をそのままにしておきます。繰り返しの練習が必要ですが、続けていくことで効果を実感できます。「思考を減らしたい」、「対処したい」という考えが自動的に起こっていることに気づけるようになり、慌てて反応することが少なくなります。実際のところ、侵入的思考を減らす試みで悪化しますので、反応しない練習をすることはとても有効な対処法になります。侵入的思考が起こったり、辛い感覚がある時に、目を閉じて呼吸や地面につけている足の裏、椅子に触れている背中などに注意を向け、連続して起こっている思考の連鎖から距離を取るイメージを持つようにするよいかもしれません。