強迫症とトラウマ体験

強迫症(強迫性障害)

強迫症(OCD)が発症する原因は、実に様々です。一つの原因にトラウマがあります。PTSDという精神科の診断基準を満たす場合もあれば、過去の傷つき体験なども、強迫症の発症の一因になっていることがあります。

強迫症とは?

強迫症(強迫性障害)は、不安や不快感を引き起こす考え、記憶、イメージを排除すること(強迫行為)が過剰になる状態です。なんとかして避けたい、解決したいという考え(強迫観念)が常につきまとい、精神的に張り詰めた状態が続きます。汚れ、身の安全、納得いくまで何かをするようになるのが特徴です。

トラウマとは?

トラウマは、事故や災害、暴力などの記憶が繰り返し思い出され、過去の経験が終わっていない感覚(再体験)になる状態です。トラウマに関連する事柄、またはそれを思い出すきっかけを避けることで、生活に支障が生じます。生き死に関わるような体験し、その記憶によるストレスが生活を困難にしている状態をPTSD(心的外傷後ストレス障害)と呼びます。PTSDの基準を満たさないけれども、過去の辛い記憶に悩まされているかたもいます。例えば、裏切られた、恥をかかされた、理不尽な仕打ちを受けた、裏切られた、不義理、不貞などです。

なぜ強迫症とトラウマは合併しやすいのか?

両方とも不安を感じやすい人に起こりやすく、トラウマ体験により強まった不安が、強迫症が発症しやすくすることがあり得ます。不安は、警戒心や緊張感を高めます。一般的にも、不安やストレスが強い時期に、強迫症を発症する方がお多いと言われています。そして、両方の障害は、不安を司る脳(扁桃体など)が関係しています。過剰になった不安は、実際には問題のないことでも、危険だと認識させることがあります。

トラウマを経験すると、その記憶を思い出すことでの衝撃や激しい感情が沸き起こります。そのため、落ち着いて過ごすことが難しくなります。強迫症においても同じで、気になったことをそのままにすると、耐え難い感覚になります。強迫症にトラウマが併存する場合、過去のトラウマや傷つき体験を思い出す事柄を避けるようになります。あらゆるものがその対象になりえます。自分を傷つけた人を連想させる状況や物、トラウマを再体験するかもしれない状況(例:注意を怠ったかもしれない)などが例に挙げられます。

基本的には、両者とも、不安な状況を避ければ避けるほど、そのことを考える様になってしまいます。つまり、不安や過去の記憶から逃れるというよりも、それらに常に惑わされる状態になりえます。トラウマと強迫症が合併する場合、基本的には生活に影響が大きい方から、治療や支援を行います。いずれも、不安な状況を回避することで、悪化を続けます。トラウマの場合、避ければ避けるほど、自分は無力だと感じられ、記憶に向き合うことが怖くなります。強迫症は、強迫行為が過剰で生活に支障が起きますが、不安をそのままにしておく力(不安耐性)が下がり、強迫行為をすることでますますそうなっていくという悪循環が起こります。

    まとめ

    強迫症とトラウマは、どちらも強い不安や嫌悪感を伴い、辛い状態になります。不安の強まりや回避行動は、両方に見られます。強迫症は、回避が特定の方法、かつ儀式的なやりかたになっているのが特徴です。いずれにしても、トラウマの葛藤を減らすことと、強迫行為による不安対処を手放していくことが、治療になりえます。トラウマにより学習された警戒心は、通常簡単に取り去ることはできません。自分や他人を信じること、安全な感覚、コントロール感、自分を大切にする感覚などが、トラウマにより影響を受けるからです。この点を考慮せず、強迫行為だけを減らすアプローチもありえますが、やる気が維持できなかったり、支援者と信頼関係を築くのが難しくなる方が少なくありません。困っている方がいましたら、理解のある支援者と出会っていただきたいです。


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