こんなことはありませんか?
- 怒っている人がいると、(何も言われていないのに)怒られているかのような気分になる
- 慌てている人がいると、自分も焦ってしまい、その人を助けたくなってしまう
- 誰かの不満を耳にすると、確かめる前に自分のことを言っていると思ってしまう
- 自分が辛い状況にいる時、周囲の人はわかっているはずなのに、助けてくれないと思う
自分と他人の感情(期待、必要なども含む)の影響を強く受ける、他人の評価がそのまま自分の評価と思える状態を、心的等価モードと言います。心の想像が現実に思えてしまうという意味です。例えば、あなたには配慮がないと言われたとき、それなりの配慮を心がけてきたはずなのに、これまでのことが全て配慮に欠けているような感覚になったとしましょう。これは、感情が強く湧き起こると同時に、思考が心的等価していると言えるかもしれません。このような状態の時、その思考の真実味がとても強く、他の視点を持つことができなくなります。
では、こんなことはあるでしょうか?
- 笑顔でいる人は幸せな人だ
- この人は成績優秀だから、人の弱さはわからないだろう
- この外見や能力では、人は私の価値を認めてはくれないだろう
- 私がこれだけやっているのに、気づこうとしないあの人はおかしい
- こんな簡単なことができない自分はだめなやつだ
見た目(表情、言動など)、誰もが見てわかる特徴(成績、学歴、資格、収入など)から、自分(他人)の状態を想像すること、方法論や解決方法を追求して、その過程にある自分の気持ち、他人の考えを見なくなる状態を、目的論モードと言います。目的論モードでいる間は、それが正しいと感じるのですが、冷静になってみると、何が本質なのか根拠が言えなかったり、手段が目的になっていて、本来の目的がわからなくなっていたりします。
それでは、こんなことはどうでしょうか?
- 正しく伝えよう、批判されないようにしようと考えて、正論や客観的事実のみの話題に終始する
- 自分の内面を話すことに抵抗があり、いつもと同じ、特に問題ないと返答する
- 人には何を言っても無駄だと考えて何も言わない、または全面的に同意する
- ネガティブな感情を表出することに抵抗があり、前向き話や自分以外の話題で感情を抑える
自分の欲求や感情から目を背ける、人の心に関心を示さない、感情の切り離しが起こる状態をプリテンドモードと言います。ある意味では、辛く、不快な感情から距離を取るための対処なのですが、あまりに過剰になると、自分の本心がどこにあるのかわからなくなったり、周囲の人も戸惑いを感じたりします。そして、辛い感情を切り離してしまうことにより、休息を取ったり、傷つき体験を避けることができなくなる方がいます。
このような自分や他人について考えること(想像すること)を、メンタライゼーションと言いますは、心の状態によって変化します。冷静な時には、自分を客観的に、理性的に見ることができます。逆に、感情的になったり、ストレスがかかっていると、自分や他人の心の見方は変わってきます。それは、冷静にメンタライジングをしている脳と、感情的になった時に使う脳とが異なるからです。急いでいる時、危険が迫っている時、メンタライジングを行う脳は抑制されます。そして、切迫感が強くなり、問題解決のことで思考が埋め尽くされます。これを闘争・逃走反応と言う人間の防衛本能からもたらされる物です。
感情が強まることで、メンタライジングが不全になりやすくなります。この状態をプリメンタライジングモードと言います。何が正しいかひたすら考える、他人がどう思っているのか想像し続けることもあるでしょう。逆に、自分や他人の心を見ることをせず、衝動的に何かをしたり、言ったりしてしまうこともあるかもしれません。パーソナリティ障害や外傷体験は、メンタライジングの不全(プリメンタライジングモード)への切り替えを早めてしまうため、感情調整や対人関係の問題が生じるのです。
メンタライゼーションは自己理解や対人関係に関係する重要な能力です。自分の心の状態を知り、言葉にする力、そして相手の心を想像しながら、対話をする時に、このメンタライゼーションが大きな役割を果たしているからです。プリメンタライジングモードへの切り替えが早い方でも、メンタライジングの練習をしていくと、少しずつ切り替わりのポイントが遅くなります。メンタライジングの脳を使うことは、冷静に考え、自分や他人を興味を持って見る姿勢です。つまり、メンタライジングは、感情の調整と対人関係能力そのものだということです。
例えば、こんなことはありませんか?
とても急いでいる時に、誰かに呼び止められた時、その人が自分の邪魔をしているかのように見えることはありませんか?「なんでこんな時に呼び止めるんだ?」と怒鳴ってしまった。しばらくして冷静になると、あそこまで怒らなくてもよかったかもしれない、でも、急いでいる自分のことをr会して欲しかったと思う。でも、そもそも、どれほど急いでいるかまでは、話していないから気づかなかったのかもしれない。不安や焦りは、相手に悪意がある、自分がどれほど辛いかわかるはずなのにという考えを強めるかもしれません。これは、感情がメンタライジングに影響を与えるからです。
または、こんな経験はないでしょうか。人前で話した時、あなたはとても緊張していました。何度も舌を噛んでしまい、吃ってもいた。とても自分の話ぶりにがっかりしていました。周囲の人に、話していた時の様子を聞くと、それほどひどくなかったと言われる。相手には伝わらないと思って、手厚く説明した話は、回りくどいと言われた。逆に、説明が足りなかった部分は、よくわかったと言われる。つまり、自分が感じていることは、他人の感じていることと異なることがある。緊張していたり、周囲の反応がわからない時は、メンタライジングが難しくなるのです。
メンタラジングとは、自分と他者の心の状態を想像する力です。なぜ想像で良いかというと、人の心の状態は常に同じ状態ではないため、確実に〇〇であるとは言い切れないのが通常だからです。
4つのメンタライジング領域
人それぞれメンタライジングをする時に、目を向けやすい領域があります。まずは自分が何を思っているか、感じているかに意識を向けていくと良いでしょう。その上で、自分が何をメンタライジングしやすいのか、何を手がかかりにするのかに気づいていくと、バランスの取れたメンタライジングをする準備が整っていきます。以下に示すメンタライジングの極は、両方を柔軟に行き来できると良いと考えられています。
1. 感情 or 思考
感情(感覚的、共感的)
- 心が軽い感じがする、今日は調子がよさそうだ
- この人は表情が険しい、きっと焦っているのだろう
認知(理論的、分析的)
- 今の体調がある理由はなんだろうか、何が影響しているのだろうか
- (怒っている人に対して)この人は何をしようとしているのか、常識的どうか、どう対処しようか
2. 外面 or 内面
外面(外見、立場)
- 自分はどうみられているんだろう?
- この人は、どういう立場の人なんだろう?
内面(信念、意図)
- 自分は納得いっているのだろうか?どうしたいのだろう?
- この人は、どういう思いで話をしているのだろう?
3. 自動 or 抑圧
自動(直感的)
- 怒っている人を見て、すぐに自分のせいだと考えた
- 話が理解できず戸惑っていたら、話をちゃんと聞けと怒鳴られた
抑圧的なメンタラジング
- とにかく黙っていればなんとかなる(怒りや不満を切り離す)
- 正論、常識の話が多い(本音がわからない、話が退屈)
4. 自分 or 他人
自分のメンタラジング
- 自分はどう思っているのか
- 私は何をしたいのか
他人のメンタラジング
- 他人は私の言動をどう思っているのだろう?
- 他人は何を考えているのだろう?
ある意味、自分のメンタライジングの特性に気づくことは、自己理解であると言えます。ストレスを感じたり、不安や怒りが強まる時、近しい関係では、メンタライジングが難しくなります。どのような時にメンタラジングが困難か、どちらの極に振れやすいのか、バランスが取れている時はどんな時かがわかると良いでしょう。そして、目を向けていない別の領域に視点を向けていく練習をすると、少しずつメンタライジング力が発達していきます。
Mentalization Based Treatment
Mentalization-Based Treatment (MBT)は、Anna Freund Center、University College of LondonのPeter Fonagy、Anthony Batemanによって開発された心理療法です。元々、境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療法として開発、研究がなされてきました。BPDは生育歴やこれまでの人間関係、外傷体験などによって、メンタライジングが不全になりやすいと考えられています。メンタライジングは、愛着に関連することから、BPDだけではなく、対人関係や感情調整に困難を感じている方にとっても有用なものと言えます。
通常、MBTは24回を1クールとして行います。週1、または隔週でセッションを行います。対面、オンラインのいずれでも実施が可能です。メンタライジングについて理解を深めてもらいながら、メンタライジングの傾向や、うまくいく時、うまくいかない時を探っていきます。治療者は、クライエントのメンタライジングが促進されるよう、一緒にメンタライジングをしながら面談を進めます。愛着に関連する葛藤をお持ちの方、長い間改善しないうつ病、不安症がある方、気が付かずに披露して燃え尽きをたびたび経験している方にも、適用となる場合があります。
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